サイバーセキュリティを学びたいと思っても、ネットワーク、暗号、Linux、Web、マルウェアなど、候補が多く「何から始めればよいのか」で迷いがちです。この記事では、基礎から実践へ無理なく進むためのLearning Pathを紹介します。
サイバーセキュリティを学び始めるとき、いきなり攻撃手法やセキュリティツールの使い方から始める必要はありません。
むしろ最初に理解しておきたいのは、
「何を、何から、なぜ守るのか」
という基本的な考え方です。
サイバーセキュリティが対象とするのは、コンピューターだけではありません。
情報システム、ネットワーク、ソフトウェア、データ、サービス、そしてそれらを利用・運用する人や組織まで含まれます。
例えば、あるWebサービスを守る場合でも、
といった複数の観点が必要です。
そのため、「攻撃方法を知ること=サイバーセキュリティを学ぶこと」ではありません。
システムがどのように動き、どこにリスクがあり、それをどう守るのかを理解することが学習の基本になります。
サイバーセキュリティを学ぶうえで、最初の土台になるのがコンピューターとネットワークの仕組みです。
例えば、Webサイトを開いたときにも、
など、多くの仕組みが関係しています。
セキュリティ上の問題は、こうした通常の仕組みが悪用されたり、設定を誤ったり、想定外の使われ方をしたときに発生します。
したがって、
「攻撃を学ぶ前に、正常な状態を理解する」
ことが重要です。
例えばポートスキャンを学ぶのであれば、その前に、
「ポートとは何か」
「TCPの接続とは何か」
「サーバーはなぜ特定のポートで待ち受けるのか」
を理解している方が、単なるコマンド操作ではなく、その結果を意味として理解できるようになります。
初心者の段階では、すべてを詳しく理解する必要はありません。
まずは、
コンピューター → OS → ネットワーク → Web
という基本的なつながりを説明できる程度を目標にするとよいでしょう。
次に、サイバーセキュリティ特有の考え方を学びます。
例えば、
といった概念です。
ここで重要なのは、用語を暗記することではありません。
例えば「脆弱性」と「リスク」は同じものではありません。
システムに弱点があったとしても、その弱点がどのような脅威によって悪用され、どの程度の影響を生むのかによって、対応の優先順位は変わります。
また、強いセキュリティ対策であれば何でも導入すればよいわけでもありません。
使いやすさ、運用、コスト、業務上の必要性などとのバランスも必要です。
ここまで理解すると、サイバーセキュリティを単なる「攻撃対防御」ではなく、システムとリスクを考える分野として捉えられるようになります。
基本を理解したら、CyBOKを使って学習範囲を整理します。
CyBOK Version 1.1では、サイバーセキュリティの知識が21のKnowledge Areasに整理されています。
ただし、初心者が21のKnowledge Areasを最初から順番に全部読む必要はありません。
まず、自分が学んでいる内容がどこに位置しているのかを確認します。
例えば、ネットワークを勉強しているなら、
Network Security
が直接関係します。
しかし学習を進めていくと、
などとの関係も見えてきます。
Webセキュリティなら、
Web & Mobile Security
を中心に、
などへ知識を広げることができます。
CyBOKではKnowledge Area同士が完全に独立しているわけではなく、相互に関連しています。
そのため、
「この分野を全部終えたら次の分野へ進む」
という一本道ではなく、
「今学んでいることから関連する知識へ広げる」
という使い方が適しています。
Cyber Hiroshimaでは、この考え方をLearning Pathの基本にしています。
基礎知識だけを長期間学び続ける必要もありません。
ある程度理解したら、早い段階から実際に手を動かします。
例えば、
といった経験です。
ここで重要なのは、演習の目的を「問題を解くこと」だけにしないことです。
例えば、ある演習をクリアできなかったとします。
そのとき、
「正解のコマンドは何だったのか」
だけを確認して終わるのではなく、
「自分には何の知識が不足していたのか」
を考えます。
ネットワークの理解でしょうか。
Linuxの権限でしょうか。
認証の仕組みでしょうか。
Webアプリケーションの構造でしょうか。
そこで再びCyBOKという地図へ戻ります。
この繰り返しが、
Knowledge → Practice → Review
です。
Cyber Hiroshimaでは、CyBOKによる体系的な知識と、SudoRangeなどのCyber Rangeによる実践を組み合わせることで、この学習サイクルを作ることを目指しています。
基本を身につけた後は、全員が同じ内容を学ぶ必要はありません。
自分の関心や目的に応じてLearning Pathを分けていきます。
例えば、
Adversarial Behaviours
→ Malware & Attack Technologies
→ Network Security
→ Security Operations & Incident Management
といった領域が重要になります。
例えば、
Web & Mobile Security
→ Software Security
→ Authentication, Authorisation & Accountability
→ Cryptography
などへ進むことができます。
例えば、
Security Operations & Incident Management
→ Forensics
→ Network Security
→ Malware & Attack Technologies
といった関係を意識すると理解しやすくなります。
例えば、
Risk Management & Governance
→ Human Factors
→ Law & Regulation
→ Privacy & Online Rights
などが重要になります。
これらは「この順序でなければならない」という公式カリキュラムではありません。
目的に合わせて学習経路を考えるための一例です。
大切なのは、自分の専門分野だけを孤立して学ぶのではなく、周辺のKnowledge Areasとの関係を意識することです。
ここまでを、初心者向けにできるだけシンプルにすると、Cyber Hiroshimaでは次の流れをおすすめします。
1. 基礎を知る
コンピューター、OS、ネットワーク、Webの基本を理解する。
↓
2. セキュリティの考え方を知る
機密性、完全性、可用性、脅威、脆弱性、リスク、認証などを理解する。
↓
3. CyBOKで位置を確認する
学んでいるテーマが21 Knowledge Areasのどこにあるか確認する。
↓
4. 実際に試す
Cyber RangeやCTFなどで、知識を操作や問題解決に使ってみる。
↓
5. 分からなかったことを見つける
演習結果から不足している知識を確認する。
↓
6. CyBOKへ戻る
関連するKnowledge Areaを調べ、理解を深める。
↓
7. もう一度試す
このサイクルを繰り返します。
目指すのは、
「全部知ってから実践する」ことではなく、「学習と実践を往復する」こと
です。
サイバーセキュリティは非常に広い分野です。
そのため、
「どこから始めればよいか分からない」
と感じるのは不自然なことではありません。
重要なのは、最初からすべてを理解しようとしないことです。
まず基本的なコンピューターとネットワークの仕組みを理解し、セキュリティの基本概念を学ぶ。
次にCyBOKを使って、自分が学んでいる場所を確認する。
そして実際に手を動かし、分からなかったところから次の学習テーマを見つける。
Learn → Practice → Review → Learn Again
この循環を作ることで、「何を勉強すればよいのか分からない」という状態から、自分で次の学習を選べる状態へ進むことができます。
Cyber Hiroshimaは、そのためのKnowledge、Practice、AI、Challenge、Communityをつなぎ、継続して学べる環境を作っていきます。
サイバーセキュリティを体系的に学ぶには — CyBOKを「地図」として使う
CyBOKを使ってサイバーセキュリティ全体を俯瞰する考え方を紹介しています。
知識を実践に変える — Cyber RangeとSudoRangeで何が学べるか
次のステップでは、Cyber Rangeを使うことで、知識をどのように実践的な理解へ変えていけるのかを紹介します。
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