サイバーセキュリティを学ぼうとすると、ネットワーク、暗号、マルウェア、フォレンジック、リスク管理など、多くの分野が一度に現れます。この記事では、21のKnowledge Areasで知識を整理するCyBOKを「学びの地図」として使い、自分が何を学び、次にどこへ進むべきかを考える方法を紹介します。
サイバーセキュリティを学び始めたとき、多くの人が最初に直面するのは「情報が足りないこと」ではありません。
むしろ、情報が多すぎることです。
ネットワークセキュリティ、Webセキュリティ、暗号、認証、マルウェア、インシデント対応、デジタルフォレンジック、クラウド、AI――検索すれば、それぞれについて大量の記事、動画、講座、資格教材が見つかります。
問題は、
「これらがどのようにつながっているのか」
が分かりにくいことです。
個別の技術を学ぶことは重要ですが、それだけでは自分がサイバーセキュリティ全体のどこを学んでいるのかを見失いやすくなります。
そこで役立つのが、**Cyber Security Body of Knowledge(CyBOK)**です。
CyBOKは、サイバーセキュリティ分野で確立され、広く認識されている知識を体系的に整理したBody of Knowledgeです。
Cyber Hiroshimaでは、CyBOKを単に「読むための大きな資料」ではなく、
サイバーセキュリティの世界を理解するための地図
として捉えています。
CyBOKは、サイバーセキュリティにおける基礎的かつ広く認識された知識を整理することを目的としたKnowledge Baseです。
現在公開されているCyBOK Version 1.1では、サイバーセキュリティの知識を**21のKnowledge Areas(KA)**に整理しています。
さらに、その21のKnowledge Areasは大きく5つの領域に分類されています。
例えば、Network Securityだけを見ても、それは単独で存在しているわけではありません。
ネットワークを守るためには、Cryptography、Authentication, Authorisation & Accountability、Operating Systems & Virtualisation Security、Security Operations & Incident Managementなど、周辺分野の理解も必要になります。
CyBOK自身も、それぞれのKnowledge Areaは完全に独立しているわけではなく、多くの相互関係があることを示しています。
だからこそ、CyBOKは「21科目を順番に勉強する教科書」というより、サイバーセキュリティという広い領域の構造を把握するための知識体系として使うと価値が分かりやすくなります。
CyBOK Version 1.1は非常に大きな資料です。
そのため、
「最初のページから最後まで読まなければならない」
と考える必要はありません。
重要なのは、まず自分の関心や目的がCyBOKのどこに位置するのかを知ることです。
例えば、Webアプリケーションのセキュリティに興味があるなら、Web & Mobile Securityを入口にできます。
ネットワークを学びたいならNetwork Security、攻撃者の行動を理解したいならAdversarial Behaviours、インシデント対応に関心があればSecurity Operations & Incident Managementが入口になります。
そこから関連するKnowledge Areaへ学習範囲を広げていきます。
たとえば、
Web & Mobile Security
→ Software Security
→ Authentication, Authorisation & Accountability
→ Network Security
というように進めることもできます。
逆に、組織としてセキュリティに取り組む人であれば、
Risk Management & Governance
→ Human Factors
→ Law & Regulation
→ Security Operations & Incident Management
という学び方も考えられます。
つまり、全員が同じ場所から始める必要はありません。
CyBOKという共通の地図があれば、それぞれ違う入口から学び始めても、学んでいる知識の位置関係を確認できます。
ただし、CyBOKを読むだけでサイバーセキュリティを実践できるようになるわけではありません。
これはCyBOKの問題ではなく、知識と実践では学習の役割が異なるためです。
例えばNetwork Securityを学び、
を理解したとしても、実際の環境でパケットを確認したり、設定を変更したり、攻撃を検出したりする経験は別に必要です。
Cyber Hiroshimaでは、ここを
Knowledge → Practice
として考えています。
まずCyBOKを使って「何を知るべきか」を理解する。
そしてCyber Rangeなどの実践環境を使い、「その知識を実際にどう使うのか」を試す。
さらに演習後にCyBOKへ戻り、うまく理解できなかった部分を確認する。
この往復が重要です。
理論を全部終えてから実践へ進むのではなく、
知る → 試す → 分からないことに気づく → もう一度学ぶ
というサイクルを繰り返すことで、知識が実践的な理解へ変わっていきます。
学習では、「何が分からないのか分からない」状態が大きな壁になります。
例えばCTFでWebアプリケーションの問題に挑戦して解けなかったとします。
単純に、
「もっとCTFをやろう」
と考えることもできます。
しかし、本当に不足しているのは何でしょうか。
Webの仕組みでしょうか。
認証でしょうか。
暗号でしょうか。
ネットワークでしょうか。
Secure Software Lifecycleの考え方でしょうか。
CyBOKを参照すると、ひとつの問題を周辺のKnowledge Areasと関連づけて考えることができます。
これは学習者だけでなく、教育する側にも有効です。
「この演習では何を学ばせるのか」
「この講座ではCyBOKのどのKnowledge Areaを扱っているのか」
を整理できれば、単発の教材や演習を、より大きな学習体系の中に位置づけられます。
Cyber Hiroshimaが目指しているのは、CyBOKを日本語で紹介することだけではありません。
CyBOKを共通の知識体系として、
Knowledge × Practice × AI × Community
をつなぐことを目指しています。
CyBOKで知識の全体像を理解する。
SudoRangeなどのCyber Rangeで実際に試す。
将来的にはAIを活用して、理解できない部分の説明や学習経路の支援につなげる。
Cyber Challengeでは、学んだ知識を問題解決の中で試す。
そして広島だけで閉じるのではなく、Cyber Walesをはじめとする国内外のコミュニティともつながる。
その中心に置くのがCyBOKです。
CyBOKは「正解をすべて教えてくれる教材」というより、
自分がどこにいて、次にどこへ向かうべきかを考えるための共通地図
として使うことができます。
サイバーセキュリティの学習に、すべての人に共通する唯一のスタート地点があるわけではありません。
プログラミング経験のある人。
ネットワークエンジニア。
企業の情報システム担当者。
学生。
経営やリスク管理に関わる人。
それぞれ、すでに持っている知識も学ぶ目的も違います。
だからこそ、「最初から全部学ぶ」のではなく、
自分の現在地を確認し、入口となるKnowledge Areaを見つける
ことから始めてみてください。
Cyber Hiroshimaの「CyBOKで学ぶ」では、21のKnowledge Areasを5つの領域に整理し、それぞれの概要と学習上の位置づけを日本語で確認できます。
CyBOKという地図を開き、自分のサイバーセキュリティ学習の入口を探してみてください。
CyBOKで学ぶ
21のKnowledge Areasと5つの領域から、サイバーセキュリティの知識体系を確認できます。
サイバーセキュリティを何から学ぶべきか
次の記事では、初心者がCyBOKを使って実際のLearning Pathをどう組み立てればよいかを紹介します。
CyBOK Version 1.1.0 © Crown Copyright, The National Cyber Security Centre 2021, licensed under the Open Government Licence v3.0.